「…まさか」
肋骨を怪我して
大正ロマンのマンションから
吊るされたときの
あの傷が…?
「おかしいとは
思わなかったですか?
あのオイシイトコ取りの
セイ先輩が
流鏑馬の経験があると
電話で僕に
自慢しておきながら
いざ、弓矢を用意されたら
僕なんかに
弓を引かせたりして」
「でもでもでもッ!!!
セイは完璧主義者だから
自分が失敗するぐらいなら
カノンくんにヤラせて
失敗した方がいいって
考えてたのかもよッ」
そうだよッ。
傷が治ってなかったとは
限らないじゃないッ。
「地下道でのセイは
私に意地悪ばっかり
言ってたしッ!」
流鏑馬の話だって
わざと知らない誰かと
世間話で
盛り上がってるみたいに
見せ掛けてッ
「私がドキドキするの
楽しんでたみたい
だったもんッ」
「…そうやって
ときどき刺激してないと
トーコさん
自分の置かれている
状況を忘れて
安心して寝ちゃってたんじゃ
ないんですか?」
え?
「あんなトコロで安心して
うたた寝でも始めちゃったら
確実に凍死してましたよ」
「……」
「それに、セイ先輩。
家でも電車の中でも
僕に対して
やたらと蹴りは
入れてきていたけれど
手はけっして
上げてこなかったし…」
「……」
…カノンくんの
指摘してくるコトは
認めたくはないけれど
確かにその通りで。
「普通に
生活しているように
見えていたから
…てっきり」