本気ッ♂041


壁伝いに
横這いになりながら

水が流れ落ちてくる階段を
慎重に
1段1段登っていく。


顔を背けていても

「あぶッ」

上から降ってきてきた泥水が

容赦なく
目や鼻の中に入ってきた。


「ゲホッ、ゴホホッ」

私のすぐ後ろに
ピタリとくっつくようにして
ついてきていたカノンくんが

おおきく咳き込んでいる。


「だ、大丈夫ッ!?
カノンくんッ」


「ゲッ、ゴホッ、くッ」

…泳げないヒトにとって

この水流は
かなりの恐怖だろう。


「カノンくん
私がついてるからねッ!」

「ゲホッ、ゲホッ」

「……」


壁の出っ張りに
両手を掛けたまま

壁に向かって
咳き込み続けている
カノンくん。


そのおおきな目を
かたく閉じて

必死で
息をしようとしていた。


…カノンくんで
この調子じゃ

あのフクフク少女を連れて
この階段を
上がろうとしていたら

大変なコトに
なっていたに違いない。


「カノンくんッ
ほらッ!」

水しぶきが
カノンくんの顔を
直撃しないよう

私は
カノンくんのアタマを
引き寄せて
自分の右肩に押しつけた。


「目と鼻をしっかり
閉じておいてねッ!」