履いている靴に
直接取りつける
簡単なタイプだけれど
濡れた石畳を
靴や裸足で走るよりは
遥かに早そうだ。
車輪に不具合がないかを
慎重に確認してから
足に装着してみた。
「いつもなら
ローラーボードなんかも
置いてあったり
するんですけど」
「ううん!
これで充分だよ…あ」
だけど
ローラースケートは
ひとつしかない。
「アナタの分は?」
「私、こんな姿で
駅をウロつきたくなんか
ないですから」
「……」
私だってそうですけどッ。
「この先を進んで
行き止まりにある階段で
地上に出れば
目の前に
駅が見えますから」
あっという間に駅だ、って
少女がくるん、と
カサを振り回しながら
私に背中を向けた。
「…ありがとね」
少女の背中に
私がちいさく声を掛けて
ダッシュしようとした
その瞬間
「…もし
カノンくんに逢ったなら」
私に何かを言い掛けて
「え?」
「……」
そのまま
押し黙ってしまう。
「…カノンくんに
何か伝えるコトがあるなら…」
お節介だとは思いながら
スタートしようとしていた
足を止める。