そんなコトしたら
カノンくんに
余計に軽蔑されるよ、とは
とてもじゃないけど
言えなかった。
「……」
私は打ちつけてしまった
オデコと鼻の
無事を確認しながら
ゆっくりと起き上がる。
ケータイを握っていた
少女の手についていた泥が
雨にどんどん流されて。
「ケータイ、壊れるよ」
ちょっと心配してみたのに。
「防水仕様ですから」
私のコートで
当たり前のように手を拭いて
ケータイを自分のポケットに
しまい込んだッ。
「行きますよ!」
今度は草のよく生えた場所を
選びながら
さっさとひとりで
少女が先を歩いていく。
…お〜お。
元気じゃないかッ。
下半身が泥で汚れた
少女の後ろ姿を見ながら
「ふッ」
思わず笑みが
こぼれてしまったけれど。
雨が弓道場の屋根を叩く
激しい音にかき消されて
どうやら
少女の耳には
届かなかったらしかった。
そんなとき
背後から
電車が通る轟音が
雨の音を突っ切るように
聞こえてきて。
「…ああ。やっぱり
素直に駅で電車を
待ってればよかったな」
なんて
後悔、先に立たずッ。
「何やってるんですか!」