少女が折り畳み傘で
弓道場の壁を叩きながら
遠く元来た道に
思いを馳せる私を
エラソーに
急かしているッ。
「……」
…別にねッ。
お礼を言われたいとか
恩を売りたいとか
見返りを期待して
助けたワケじゃ
なかったけれど。
なんだかなあ…。
はあああ、と
溜息をつこうモノなら
厳しい視線が、こう…。
「!!?」
気がつけばッ
弓道場の窓の奥
こちらを見ている
おじいさんッッ。
この弓道場の持ち主
だろうかッ。
「え、あ」
目が合って
本能的に
笑ゴマしてしまった私に
白いヤギのような
おじいさんが
にぱっと歯のない
おおきな口で笑顔と
皇室ばりのお手振りで
応えてきたッ。
「おじいちゃま!」
私の視線の向こうに
人影を確認した少女が
窓の傍に掛け寄っていく。
「……」
やせ細った老人と
むっちり少女。
共通点は
やたらと白いふたり…。
何やら
おじいちゃんと
身振り手振りの
ジェスチャーで
話しているかと思ったら
持っていたカサを
くるくる、と振り回しながら
少女が弓道場の中に
入っていった。
「…なんか
置いてかれたような?」
ここに来た当初の目的を
思わず
ド忘れしそうになる。
「…このスキに」
逃げちゃおうかなッ。