「……」

早歩きする私に
ピタリと歩調を合わせて

こうやって
いつまでもネチネチと
しつこく食い下がってくるのは

アナタのアタマの中では
性格の悪さ、と
位置づけられては
いないのでしょうかッ。


駅の改札口を出て
私が左右を確認していると


「カノンくんのいる駅なら
右ですよ」

なんて

可愛らしいフリルのついた
ちいさな折り畳み傘を

少女が自分だけ
余裕で差していてッ。


「カサ、持ってたんだ?」

だったら
何故、ホームで
差さなかったんだッ。


…そのカサを
差していてくれてたら

私はアナタの姿に
気づくコトも
なかったでしょうッッ。


「カサ、買わないんですか?」

少女は売店を
指さしていたみたいだけれど


「走るのに邪魔だから!」


少女を振り切るようにして
右方向へ飛び出した私は

線路沿いを走り出す。


だけど。

勢いよく飛び出したのは
よかったけれど

「嫌な雨ッ」

雨が斜め前から
私に向かって矢のように
飛んできて

急ぎたいのに
なかなか加速出来ずにいた。


赤信号で足止めされる度に
少女に追いつかれて。


「…けっこう
体力があるんだね。

部活とかやってるんだ?」

なんて

思わず
声を掛けてしまってる。


「…書道部ですけど」

真っ白な蒸気を
首筋からあげながら

少女も嫌味を言う
余裕がなくなったのか

私の問いに
マトモに答えていた。