「トーコ!」
セイの長い腕が
乗客の間から伸びてきて
息が止まるかと思ったのは
私だけではなかった。
私とセイ達の間を
あんなに強引に
横切ろうとしていた皆さまが
セイの腕の先にいた
私の存在を
初めて強く意識するッ。
セイが私の腕を掴まえると
そのまま自分の腕の中に
保護すると
さらにカノンくんが
私の盾になった。
ひええええええッ。
こんなシチュエーションッ。
本当ならば
オンナ冥利に尽きると
ゆ〜モノなのだけどッ。
「どうしてこんな子がッ」
皆さんの痛い視線が雄弁に
私のココロを
突き刺していくッ。
…どっちに
先に返事をするか。
そんな命題なんて
あっという間に
ふっとんでッ。
電車が動き始めると
今度は蜘蛛の子を
散らしたように
ガラン、とした車内で
「お前、今
すんごい触らせてただろ」
セイが
カノンくんの後ろの太股に
ヒザで蹴りを入れた。
「…触らせてた?」
「……」
どうやらカノンくんは
乗降のどさくさに紛れて
いろんなヒトから
カラダを触られてたみたいで。
…どこか近寄り難いセイとは
全く反対で
気が強そうな
可愛いネコのように
みんなを引き寄せずには
いられないらしい。
…そう言えば
今朝、カノンくんと
電車を降りたとき
カノンくんが
私の手を
握ってきていたけれど。
あれって、もしかして
誰かにカラダを
触られていて?
「……」