そこには
女子体操部の
窓ガラスいっぱいに
【愛らぶトーコ】の
真っ白な文字で派手な落書き。
【スキスキ、トーコ】
【トーコLOVE】
悪趣味な行きすぎた
愛情表現。
だけど。
ペンキか何かで書いたのか。
そのピュアな色とは
相反する
おどろおどろしい
滴り文字。
それが
けっして好意的な意味で
書かれたモノでは
ないコトは
さすがの私にも
すぐにわかった。
「…カノンくんが
…書いた、の?」
「そんなワケないだろ」
セイがキッパリと
言い切って。
「カノンならもっと
手間の掛る
陰湿な嫌がらせをやるハズだ」
「……」
不服そうな顔をする
カノンくんのアゴを
セイの美しい指が摘まむ。
「俺の部屋には
黒魔術の本とか
儀式用にぴったりの
ロウソクやら骨標本やら
選り取り見取りだもんなッ」
…もしもしもしッ。
「これだけ派手に
書き散らしたら
白い学ランだって
相当の跳ね返りにあってる
ハズなんだけど」
白い学ランに
白いペンキ。
もしカノンくんが犯人なら
これ程目立たずに
その場を立ち去れる
色はない。
だけど。
「カノンくんの制服には
何もついてないみたいだよ」
「だろうな。
コイツがそんなコトを
するつもりだったなら
あんな茶色の皮靴なんて
履いて出掛けないだろうしな」
あ…。