「…カノンくんッ!?」

ココロの中で
そうおおきく叫んだのに
声にならなかったのは

本能的に
何かヤバいニオイを
感じ取ったからなのかッ。


気がつくと私は
踊り場の壁に
身を隠していて。

「……」

ふたりの様子を
もういちど陰から

私はそっと窺ってみた…。


私を慕う未成熟な少年に
私に憧れる無垢な少女ッ。


対峙するふたりッ。

そこに流れる
不穏な空気の原因は

罪な私の存在、なのですねッ。


「ああッ、ごめんなさい」


申し訳ないけれど

私にはセイという
大事なヒトがいるんですッ。


アナタ達が争い
私を取り合っても

その果てにあるのは
空しさだけですッ。


罪なオンナと呼ばれても
仕方はないかも
しれないけれどッ。

「私はセイしか選べないッ」


その場にうずくまり
アタマを抱え私の元に


「もうこういうのは
やめてくれますか」


静かな中庭に
カノンくんの声が

冷たい風に乗って
聴こえてきた。


「…カノンくん?」

私は顔を上げ
中庭をそっと覗き込むと

カノンくんのその手には
私のピンクの封筒がッ。


「まさかそれッ」