けれど。

勢い余って
廊下の曲がり角で

どんッ!

「あ、ごめんなさい」

校内見学の親子に
ぶち当たるッ。


「いえ、こちらこそ」

不機嫌そうな中学生の
息子の代わりに

付き添いの母親らしい女性が
私に笑顔を返してきた。


そのまま
親子は私に背を向けて

廊下を歩いていくけれど。


「さっき音楽室にいた
あの白の学ランって
有名な進学校の付属中学の
でしょ?

あんな優秀な子も
受験するのかしら」

ってッ。


もしかして
それはウチのカノンくんの
話でしょうかッ。

思わず耳もおおきくなるッ。


「アナタも
ここに受かりたいのなら
お勉強、相当頑張らなきゃね」

母親から
プレッシャーを掛けられて

「何度も同じ話をするな」

窓ガラスに映る
男子中学生の口元が
尖がっていたッ。


…あの制服はやっぱり
どこまでも罪深かったッ。


確かにウチの高校は

シンスケがいる
進学クラスなんかは
別だけど

基本、この私やナンノが
受かったんだからッ。


自分の名前さえ書けて

運動とか音楽とか

他人より
ちょっとだけ取り柄があれば
大丈夫だから、って

私は親子の背中に
無言のエールを送るッ。


…でも。

音楽室で見掛けた、って
言ってたけど。

「弓道部の顧問の先生って
音楽の先生だったかな?」


私は離れにある
音楽室の方角に目をやった。


「ウチは運動部が多いから」

どこの部が
どの先生だとか

いちいち覚えてないけれど。


…カノンくんと音楽室って
イマイチ結びつかないな。