「母さん。
この茶碗蒸し、美味いね」
セイのわざとらしい
”お上手”にも
「やっぱり
蒸し器で蒸すと
おいしく仕上がるわよね」
ママが蒸し器を
持ち上げながら
嬉しそうにして…。
「ああ。母さん。
蒸し器が邪魔なら
棚の上に俺が戻すから」
セイが立ち上がって
迷いもなく
蒸し器を棚に片づけてて。
「……」
この茶碗蒸しッ。
いつものスーパーの
惣菜売り場のヤツを
チンしてたんじゃ
なかったんだ。
セイが剥いた、と言っていた
小芋まで
確かに
何故か入ってるッ。
「セイが見つけ出してくれた
電気カーペットのコード
どこにやったかしら?」
「それならカノンが…」
ママの問いを受けて
お手伝い小僧と
化していたらしいセイが
リビングの隣りの
和室のフスマを開ける。
…そこには
加湿器に
電気スタンドに
たくさんの洋服ハンガー。
昨夜は
まだ何も揃ってなかった
カノンくんの部屋には
ひと晩のうちに
すっかりいろんなモノが
揃えられていて。
だけど
哀しいかな。
どれひとつ
使われた形跡がなかった。
…このママの気配りを
カノンくんに重い、って
思われてたら
哀しいなあ…。
ただの遠慮なら
いいけれど。
「…ママ!
この筑前煮、おかわり!」