本気ッ♂005
「こら。逃げるな」
私の額に貼りついている
濡れた髪を
セイが親指で撫でつける。
赤ちゃんのように
横抱きにされ
バスタブの淵に腰掛けている
セイの腕の中で
私は
「はあッ、ふ」
水面に顔を出した
スイマーみたいに
おおきく
ひとつ、深呼吸をした。
「トーコのいろんなトコロが
硬くなってる…」
なんて
私の耳元で
セイがそっと呟くから
「……」
緊張にまたカラダが
固まってしまう。
「…俺のコントラバスは
どんな切ない音を出すのかな」
私のカラダを
楽器に例えながら
セイの美しい貴族的な指が
私のカラダを
チューニングを始めててッ。
私のバスタオルの奥に
隠れている弦を
やさしく爪弾いては
「あッ、う、…!!!!んッ」
芸術家は
楽器が発する
そのハーモニクスを
「クスクスクス」
楽しんでいてッ。
その快感と興奮に
何も抵抗できずにいる
自分が悔しいッ!!!!
…あまりにも
明るすぎるバスルームッ。
恥ずかしさに
セイのTシャツの胸元に
自分の火照った顔を
隠すのが精一杯の私で。
「!、…ッ!!、!」
その巧みな指使いに
情けない破音で応えながら
私はセイのヒザに
ついツメを立ててしまった。