洗面所の向こう
ドアを開けて、と
確かにママが
おおきな声で叫んでるッ。
「トーコ!
聴こえてないの?」
「……」
「……」
その想像もしなかった
訪問者に
思わず
ケンカしていたセイと
ふたり、目を合わせたッ。
「…何でッ、ママがッ!?」
「…トーコが
大騒ぎして暴れるから
だろうがッ」
セイがさりげなく
私に責任を転嫁するッ。
「洗ってやる、と
強引にバスルームに
連れ込んだのは
セイじゃないッ」
「誘ったのはお前だろう」
「誘ってなんかないしッ」
「誘ってたんじゃないのなら
どうして俺を中に入れたまま
カギなんか閉めるんだ!?」
「……」
カノンくんから
セイを引き離す為だ、って
カノンくんの名前を
出そうモノなら
またセイの導火線に
火を点けるようなモノだって
わかっていたから
私は
それ以上の言い合いを
避けたのにッ!!!
「悪いけどッ
カノンくん
洗濯が終わらないと
床につけない、って言うから
下着だけ
取らせてくれないかしら?」
ママが不用意にも
カノンくんの名前を
口にするッ!!!!!
「……」
「……」
…嫌な空気ッ。
「ふんッ!
カノンなんて
不眠症になって
一生、起き続けてれば
いいんだよッ」
「……」
…そんなセリフッ。
ママの前では
言えないクセにッ。