カノンくんが主張するには
「遠慮はなしよ」って
ママが自分が
お風呂に入るついでに
親切心で強引に
カノンくんの洗濯物を
持ち出してしまったらしく。
困ったカノンくんは
ママがお風呂から
出て来るのを
リビングでずっと
待っていたらしい。
「どうしても
下着を他のヒトに
洗われたくないから、って
カノンくんが
あんまり言うから」
カノンくんは
思春期のオトコノコ
なんだから
色々あるんだろう、って
パパの助言もあったから、って
ママはしぶしぶカノンくんに
「下着なら洗面所の脱衣カゴに
入れてあるわ」
すったもんだの末
教えたらしいのだけれど。
お風呂上りのママと
カノンくんが交渉している間に
どうやら私が
お風呂に入っちゃったらしく。
カノンくんは再び
洗面所が開くのをひたすら
待っていたと言う。
「もうそろそろ
トーコもお風呂を
出たんじゃないかしら」
って
さっきママがカノンくんを
洗面所に
送り出したのだ、と言う。
「…それで
脱衣カゴの中のモノを
取り出していたんだ?」
私の安堵の混じった
納得の声に
重苦しい空気が
和み掛けたのも、一瞬で。
「…悪かったな」
セイがママの前で
カノンくんの手を取り
握手してみせる
パフォーマンスッ。
口元に笑みを湛えつつも
…セイもカノンくんも
その目が
笑っていないんですけれどッ。
「誤解が解けてよかったわ」
ママだけが
ほのぼのトーンで
ひとり満足げに
洗面所を後にしてッ。
「……」
「……」
「……」
嫌だ、ママッ。
どうしてまたしても
この3人をここに残して
去ってしまうかなッ。
「…あのッ。悪いけどッ!」
ふたりとも
出て行ってくれるかな、って
私がセイの腕に触れると
「…よく出来た話だな。
なあ、カノン?」
その場の空気を
切り裂くようなシャープな
眼差しで
セイがカノンくんを
ひと睨みするッ。