本気ッ♂002
「…とにかく
部屋で着替えてくるね」
カノンくんの声がする方に
ギラギラしたデッカイ目を
向けているセイの腕を
ちょっとだけ
押し出すようにして
私は自分の部屋に入る。
バタン。
「ふううううううううう」
カノンくんの騒ぎの
どさくさに紛れ
セイによる身体検査を逃れて
私はピンクの封書を
部屋に持ち込むコトに
成功したッ。
「…なんかドキドキするなあ」
焦げ茶色のペンで
体型に似合わず
ちいさな文字が
謙虚に右上に偏っている。
舞い上がりながら
書いたのか
「私の名前に”様”を
つけそこなってるぞ〜」
”様”はついていないのに
名前の周りは
真っ赤なハートのマークで
彩られていて。
「一生懸命なのに
大事なトコロが
抜けちゃうなんて」
何だか
すんごく自分に似ていて
どこか憎めないッ。
「…どんなコトが
書いてあるのかなッ」
おねえさま、なんて
かわいいコトを
言っていたけれど。
「妹って
持ったコトがないから
どう接してあげればいいのか
わかんないよ〜」
レターに
書かれているであろう
その中身を想像して
私の頬もピンクになるッ。
ピッタリと
ノリづけしてある封書を
開ける為のハサミを探し
机の引き出しを開けて
ハッとしたッ。
「ママってばッ
私のハサミをまた
持ち出したままにしてッ!!」
リビングで使っていた
ハサミが
切れなくなったから、って
困っていたママに
気軽に
貸し出し続けていたコトを
私は強く後悔するッ。
「…カッターまで
持ち出したままにしてるよ〜」
裁縫セットは
リビングだしッ。
リビングには
セイがいるしッ。
「こんなかわいい
気持ちのこもった封筒を
手で雑に開けるワケには
いかないよ〜」