…何だかちょっと
スターにでもなった気分だッ。
「おしッ」
調子に乗って
さらに難しい技を
お披露目しようとした瞬間。
私からリボンを奪って
ナンノが私をひと睨みするッ。
やば〜いッ。
「見学者は
静かにしてくださいッッ」
ナンノの怒声が
女子中学生を黙らせてッ。
「ここから先は
非公開の秘密練習ですからッ」
中学生相手に敬語を使って
ナンノはオトナ気なく
体育館から見学者を
全て追い出してしまったッ。
「トーコ!
コーチが
リボンの練習はもういいから
グループ練習に
戻りなさい、って」
「あ、うん…」
リボンをそのまま
片づけにいくナンノの背中を
見つめながら
私は2年生の練習の輪に入る。
「ドンマイ!、トーコ!」
他の2年生部員から
励まされ。
体育館の扉の向こうは
すっかり静かになっていた。
あれだけナンノに
怒鳴られたから
きっとあの子達は
もう現れないだろうな、って
ちょっぴり
寂しく思いながらも
「今日は
セイが研究室の帰りに
ケーキを買って帰ってくれる
約束をしているしッ」
気持ちを切り替えて
楽しく帰ろう!
そう思った。
思った、のに!!!!!!
まさか
自分の家のマンションの前で
「あのッ」
声を掛けられるなんてッ。
「あのッ。おねえさまッ!
私とお友達に
なってくださいッ」
「!?」
その恐ろしいフレーズに
我が耳を疑いながら
オソルオソル後ろを振り返ると
体育館で見学をしていた
ふくよか女子中学生が
ひとり立っていてッ。
…まさか
この子はずっと私の家まで
ついてきていたのだろうかッ。
きょろきょろと
回りを見回してから
「私?」
そう少女に問い返すと
「はいッッ」
張りのある少女のホッペが
ピンクに染まってッ。
その黒目がちな垂れた瞳を
うるうる、させながらッ
「私の気持ちが
書いてありますからッ!」
フクフクホッペの
うるる少女は
私にピンクの封筒を
なかば強引に押しつけると
ダッシュで
走り逃げていってッ。
「……」
気がつくと
私はピンクの封筒を
握らされたまま
マンション前に
ひとり取り残されていた…。