セイがゆっくりと
上半身を起こして

私の隣りに
より掛るようにして
座り直して。


「母さんってばさ」


【もしものときの緊急連絡先】
って
自分のケータイ番号を
書いた紙を

「百円玉といっしょに
カノンの生徒手帳の中に
挟み込んでたらしくってさ」

「は?」

「カノンは
ケータイを持ってないからね」

母さんなりに
気を遣ったつもりだったん
だろうけど、って

セイはひと言つけ加えた。


「…とにかく。

母さんが真っ先に
俺に電話してくれたから

すぐに手が打てたから
よかったけどね」


セイが少しだけ
そこで笑ってくれたから…。


「…よかった」

緊張状態からの
いきなりの安堵に

少しばかり気が抜ける。


「だけど面白くないな。

あのバカの為に
なんでこの俺がッ」


私の肩にちょこん、と
アタマを乗せてくるセイの
やわらかな髪を

ヨシヨシ、して。


…さっき私に
意地悪な態度を見せたのは

人助けなんて
ガラにもないコトを
やってしまった自分への

照れ隠しだったのか。


「ママもセイに相談して
ひと安心だね」


「…雨が本格的に
降ってきたな」

セイがそれ以上は
言うな、と言わんばかりに

窓の外のお天気に
目をやった。


横殴りの雨の中

電車がひとつ目の駅に
停車して


「電車のドアから
雨が入ってくるッ」

ドア寄りの席に
座っていた私は

堪らず
席から立ちあがるッ。