走る電車の曇った
窓ガラスの向こう
ぼんやりと
こっちを見ている
駅員さんの姿が確認できて。
「…学校も顔も知られてる上
こんな風に逃げたんじゃ…」
明日は絶対
生活指導の先生から
間違いなく
呼び出しを食らうだろう。
「…名門校の制服を
着てるくせにッ」
役立たずッ。
日頃の感謝もふっ飛ぶくらい
セイのこの
考えなしの行動には
幻滅した。
オデコをドアの窓ガラスに
くっつけて
「はああ」と
深い溜息をつく私のアタマを
セイがゴンゴン、と
ゲンコツで叩いてくる。
「…ちなみに。
あのコピーの
バラ巻きの件なら
もう解決に向かってるから」
え。
「…この制服。
この鉄道会社では
かなり使えるみたいでさ」
「……」
セイの苦笑する顔が
曇ったガラスに滲んでる。
「…駅近くの陸橋を渡ってたら
強い雨風に
カサを盗られそうになって
持っていたパラパラ漫画用の
コピーを誤って手放した
バカなヤツがいましたとさッ」
「…そんな作り話ッ」
誰が信用してくれたと
言うのかッ。
「…信用なんてのはな。
話の内容が
重要なんじゃなくて
主張しているのが誰か、が
重要なワケ」
…そんなセリフを
セイにサラリと言わせてる
私の目の端に映る
その真っ白な制服が
イヤミったらしいッ。
同じ言い訳をしても
許して貰える人間と
そうでない人間がいるコトは
セイの傍で育ってきた私が
誰よりも身にしみて
知っているコトでは
あったけど。