本気ッ♂047
「よくきたな」
「……」
カノンくんの病室を
訪れた私を
迎え入れてくれたのは
氷の女王のような微笑みを
湛えたセイだった。
おおきなガラス窓。
真っ赤な夕陽を背中にして
悪魔かと見紛うような
まっ黒な皮ジャンを着た
黒尽くめのセイが
立っていて。
「…ごっくんッ」
思わず私は息を飲むッ。
「母さんなら
カノンの見舞いに来た担任を
見送りに行ったんだけど
玄関で遇わなかった?」
「…遇わなかった」
勿体ぶり屋のセイが
自分から私に
何かを説明し始めるなんて
なんか気味が悪いよね。
「…カノンくん。
眠ってるんだ?」
「昼飯を食った後
ずっと眠りっ放しらしい。
担任も早々に
病室を後にしてったよ」
「……」
セイの傍らで
静かに眠っている
カノンくん。
几帳面な性格そのままに
一糸乱れず
真っ直ぐ仰向けに
横たわっていて。
「生きてる…んだよね?」
私がくだらない
ジョークを口にした途端
セイが
眠っているカノンくんの
鼻を摘まんでッ!
「…くふう」
カノンくんの顔が
一瞬、歪んだッ。
「…セイってば
何をしにきたんだかッ」
「…トーコこそ
何しに来たの?」
「何って、その…ッ」
私が見舞いに来るのと
セイがこの場にいるのって
どちらが
より不自然なのだろうッ。
額から嫌な汗が
こぼれ落ちたッ。