「カノンくん
顔色はよさそうだねッ」

などと

話題転換を図りながら

私はママが帰ってくるのを
ひたすら待つしか
ないのだろうかッ。


「きっと夢の中で

宙づりになったトーコの
セクシーパンツから
はみ出ていた

お手入れ不足な毛でも
思い出しているんだろう」

ってッ

窓際に掛けたあった
カノンくんの制服の

クリーニングの
ビニールカバーに

セイがその長い指で
ビビビ、とツメを立るッ。


白い学ランの
胸ポケットから覗いている

ビニール袋に入った
ヨレヨレの生徒手帳!


「…ごっくんッ」

私は思わず緊張し
息を飲んだッ。


クリーニング屋からの
返却物を

忘れないように、と

ママがそのまま
強引に胸ポケットに
突っ込んだのだろうかッ。


キレイに
アイロンが掛けられていた
胸ポケットが

ビニール袋で
パンパンに膨れていて…。


…セイは
あの手帳の中身
見たのかな。


「何?」

「いえッ
何でもないですッ」


「…そお?」

ビビビビビ。

不快な音を立てながら

疑い深いセイのツメが

またビニールカバーの
ミミズバレを
ひとつ増やした。


ドキドキドキドキッ。

「……」

セイの写真が挟んである
カノンくんの生徒手帳ッ。


隠し持っていた
セイの写真を
私に目撃されたとき

カノンくんは
クールに
対応してはいたけれど

あんなモノが
セイ本人の目に
触れようモノなら

きっと
プライドの高い
カノンくんは

この先、生きては
いけないだろうッ。


「トーコ。

何故
お前はこっちを見ない?」

「……」