気がつけば

何故それを
慌てて拾い上げようと
していたのか

言い訳が
私の口をついていてッ。


「…お前は
本当にわかりやすいな」

セイが持っていた筆で
私の顔に
バッテンを書くッ。


「この生徒手帳の中身
そんなに俺に
見られたくないんだ?」


えッ。

「いえッ」

けっして
そんなコトはッ!!!


なんて

言い訳が
通じるワケもなくッ。


緊張に汗ばむ私を横目に

セイは
カノンくんの制服を
拾い上げると

私に乱暴に押しつけた。


「セイ?」

オレンジ色に照らされた
窓に映っている自分の姿を

セイは満足そうに
眺めていて。


「その手帳の中身なら
見なくても知ってるよ」

「え」

えええええええええッ!?


「母さんが
教えてくれたから」

「あ」


そうだったッ!

ママはカノンくんの
生徒手帳の中に

電話代とメモを
挟んでいたんだったッ!


「俺に憧れて
俺みたいに生きたい
なんてさ。

冗談じゃないよな」


なんて言いながら

その顔は嬉しそうに
見えるんですけれどッ。


「……」

…カノンくんの
セイへの気持ちが
単なる憧れなら

それに越したコトはないッ。


「まさか自分の話を
されているとは

コイツは
思ってもいないんだろうな」


カノンくんは
この騒ぎの中でも

ぐっすりと

無防備にも
眠りこけていて。


…ちょっと
憎たらしい寝顔が

セイに似てる、かな。