「あら?
カノンくんの制服は?」

「……」
「……」

私とセイが
ロッカーを無言で指さすと


「カノンくんの生徒手帳。
キレイにしてあげようかと
思って
アイロンと霧吹き
借りてきちゃったッ」

ってッ

ママの背後には
アイロン台を運び入れる
ねずみ〜らんどの先生の
お姿がッ。

「……」

…どこの世界に
お世話になっている
病院の先生を

気楽に使う
患者の家族がいると
ゆ〜んでしょうッ。


「水で溶かした洗濯のりで
シワクチャな紙が
元通りになるなんて

さすが
セイくんのお母さま!

博学ですね」


なんてッ

先生も
ママを勘違いさせるのは
やめてくださいッ。


「この間テレビで
やっていたんですのよ〜」

お恥ずかしいですわ〜、って

ママが嬉しそうに
生徒手帳の中から
自分の入れた小銭とメモと
セイの写真を取り出すと

「セイくんの
写真じゃないですかッ!」

…ねずみ〜らんどの先生の
声が裏返ったッ。


「そうなの!

カノンくんってば
ウチのセイのコト
本当に尊敬している
みたいでね〜」

ママはさりげなく
胸を張っていますけどッ

「……」

セイの写真を手に
先生の笑顔が
引きつってますッ。


「あのッ!
それはッ!!!」

先生に駆け寄って
私がその手から
写真を奪うと

先生はセイに背中を向け

「その写真の裏…」

私にそっと耳打ちした。


「え?」

…写真の裏?