【427】
無口な時間。
晴れ渡る青い空
セイと海に遠出した。
「うおおおおおお
海だああああ」
ひと気のない砂浜を
駆け出す私。
寄せては返す波を
「カモ〜ン!」
挑発しては
はしゃぐ私の後ろを
「……」
セイが静かに歩いてる。
「いい天気だね〜」
「……」
「海がキラキラしてるよ」
「……」
「セイも裸足に
なったらいいのに〜!」
「……」
いつになく無口なセイに
私は足を止め、振り返ると
眩しそうに目を細め
海を見ていたセイの
その口元が
やさしく笑っていたから
「……」
なんだか少しホッとした。
ふざけた
パロディーTシャツに
ストローハット
足元はビーチサンダル。
なのに、どこか
ハイブランドの広告みたいな
オシャレさが漂うのは
ズルいと思う。
「……」
潮風に吹かれながら
ゆっくりと砂浜を歩く
セイが追いついてくるのを
私は海を見ながら
波と一緒に待っていた。
「…時間が止まってる
みたいだなあ」
会話のないふたりを
おひさまが笑って見ている。
砂浜に伸びる
濃くて短いふたつの影が
波間で重なって
「ワンッ!」
勢いよく駆けてきた
大型犬にタックルされた。
「あ〜ビックリしたッ」
ずいぶん人懐っこいけれど
あたりに
飼い主らしい人影はなく…。
「お前、どこから来たの?」
私の問い掛けに
尾を激しく振りながら
ワンちゃんがさらに
自分のカラダを
私に押しつけてくる。
「…このワンちゃん
太陽と海の香りがする」
「磯の香りじゃなくて?」
この砂浜に降りて来て
セイが初めて口を開いた。
犬の下敷きになっていた
私の横にしゃがみ込み
「お前、どこかで
泳いできたのか?
毛の根元が生乾きだぞ。
鼻っ面に砂つけて
何やってんだ〜」
セイが櫛毛しながら
楽しそうに
犬に話し掛けている。
「……」
「何?」
「…今日のセイは
しゃべりたくない気分
なのかな、と思ってたけど
ワンちゃんには、たくさん
話し掛けるんだね」
「……」
セイが無類の犬好きなのは
知ってるし。
ワンちゃんに嫉妬するのも
おかしな話だって
わかってはいるけれど。
「セイは私とふたりでいるの
本当は
退屈なんじゃないの?」
思わず口をついて出た
私のコトバに
「何だ、それ」
セイは不服そうに立ち上がり
「行くぞ、ワン公!」
犬と一緒に
砂浜を駆け出した。
「黙って一緒にいる時間に
しあわせ感じて
何が悪いんだよなあ?」
「ワンッ!」
おひさまサンサン。
私は熱い砂の上
セイの背中を追い掛ける。
とことんトーコッ☆【427】
≪〜完〜≫
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