倫理観の違うふたりが
オトコをめぐって
火花を散らした。
ここは今後のコトを
考えたって
オンナとして
引くワケにはいかないッ。
なのに
「トーコが
世話になったんだから
俺がお礼をするのは
当たり前だろうが」
セイってば
長い腕で
私を簡単に払いのけてッ。
「私が世話になったって
言ってるけどッ。
セイは何を知ってるって
言うのよッ!!」
「テツオさんにメシ
作らせたんだろ?」
「見てもないくせにッ」
「見なくてもわかるよ」
「玄関から
美味そうな匂いがして
小麦粉がついた
エプロンをつけた
テツオさんが出てきたら
誰だって想像がつく」
おまえは何にも
つくってないんだろう、って
セイが決めつけるモノだから
「海老の背ワタ
取ったわよッ!!」
まだ生臭い指を
セイの鼻に近づけた。
「…何?」
「……」
「これって
舐めて欲しいってコト?」
「違うわいッ…違ッ…」
何だかすんごく
情けなくなって
ナミダがポロリと
こぼれ落ちる。
「…あ、私、そろそろ
帰ろうかなッ」
私の様子に
ちょっと
調子に乗りすぎたかな、って
テツオさんが笑ゴマして
セイと私を
エレベーターから押し出して
「……」
「……」
誰もいない
エレベーターホールに
ふたり取り残された。
「…泣くなよ」
「目にゴミが
入っただけだからッ」
「だったら
汚い手で擦るんじゃない」
セイが私のヒジを掴んで
私を乱暴に引き寄せた。
「やだッ」