【マユミさん
ステキな笑顔をありがとう】


ママの前に置かれたケーキを
覗き込んで

ケーキのチョコプレートに
書かれた文字に
私は思わず苦笑する。


「退院祝いのケーキだなんて
誰も思わないよねッ」


ぱこッっとセイに
アタマをグーで叩かれた。


「痛い〜!!

「コーヒーくらい
淹れるの手伝え」


セイが私を冷やかな目で
見下ろしている。


「こういうケーキには
紅茶、でしょッ!」

「うがッ!!」


私はセイの高慢なアゴに
頭突きを食らわしてやった。


「トーコ!

そういう急所攻撃は
やめなさい」


パパがまたセイの味方をする。


「わざとじゃないもんッ。

立ち上がろうとしたら
そこにセイのアゴが
あっただけだもんねッ」


私は痛みに震えるセイを
横目で見ながら

紅茶を用意しに
キッチンに移動した。


「…バカトーコッ!」


セイのつぶやきは
この歳、無視だッ。


キッチンに立っている私を
セイは執拗に目で追ってきて。


…ちょっとコワイぞッ。


面倒くさいけど

「セイには
コーヒーを淹れてやるかッ」


ああ、私ってホント
小心者ッ。


セイが食卓から
食べ終わったお皿を
下げてきて


「…おまえ
本気でケーキに紅茶
食す気なんだ?」


紅茶をカップに注いでいる
私の手元を凝視する。


「セイのは
コーヒーにしたからッ」


私はセイに
コーヒーの入ったカップを
強調した。


「…ふ〜ん」

セイは
まだ何か言いたげにして


取り分け用の
ケーキサバーと
ケーキナイフと
フォークを
引き出しから取り出しては

また

「ふ〜ん」


お皿を棚から
出してきては

また

「ふううう〜ん」


私を横目で見つめてくる。