「…何だよ、それ」

セイが
足元の壁を蹴り押して

イスの上に
踏ん反り返った。


「トーコはさあ…」


セイが
何かを言いかけて

やめる。


「……」
「……」


やな沈黙。


もう帰りたい。

私はおもむろに席を立った。


「どこいくの?」

セイが私の腕を掴む。


「…トイレッ」

「じゃ、俺も」


セイが勢いよく
席から立ち上がった。


「だったらお先にど〜ぞ!
私、セイの後に行くからッ」

「トーコと
いっしょがいい」


「トイレはもう
ひとりで出来る年齢
でしょッ!!!!!」


「…出来ないッ」


セイが私の顔に
自分の顔を接近させる。


「僕ちゃん
トーコちゃんより
2つも年下だし〜ッ。

トイレで
誘拐されたら
どうしよう〜」


…セイ、気ショイぞッ。


セイの悪ふざけが
エスカレートしないうちに

ここは退散した方が
よさそうだ。


「じゃ、もう帰ろうよ。

家のトイレなら
安心、安全でしょ?」


私の提案に

「晩飯、まだ食ってない」

セイの顔に
どんどん不機嫌の色が
増していく。


「駅前のホテイチで
何かデリカでも買って…」

「俺、トーコが食いたいッ」


「……」


ここでセイに冷たくして
ひとりで帰ったりしたら

セイはやっぱり

その辺の
適当なオンナノコを掴まえて

にゃんにゃん
しちゃうんだろうか…。


「また溜息ッ!」

セイが怒鳴りながら
私の両頬を
びよ〜んと伸ばした。