だけど。
「セイなんかもう
帰っていいよッ!
私達
ヒメミヤ・ジュンイチを
中で追っかけるからッ!」
「……」
セイの嫉妬心を利用して
シンスケを繋ぎ止めるなんて
我ながらズルイとは
思ったけれど。
「あんなオッサンの
どこがいいのかッ」
セイがしぶしぶ
私とナンノの後をついてくる。
「やさしいッ」
「意地悪しないッ」
「文句言わないッ」
私は
セイとは正反対の
形容詞を並べ立てた。
「くそッ」
セイがおもむろに
サングラスを掛け出して
「暗がりでサングラスを
するなんてねッ」
ここぞとばかりに
鼻で笑ってやる。
「ッるっせ〜!」
セイがまた
私の髪を引っ張った。
「うわ〜、きれい」
私とセイの内輪モメなど
気にもかけずに
ナンノはシンスケと
さりげなく寄り添っていて。
「美味そうな魚だなあ」
なんて
お約束のセリフを
言っているのは…!
「シンスケ…」
アナタですかッ。
「コイツらのどこが
美味そうなんだか」
天敵もなく
ストレスもなく
「見ろよ。こいつらの目」
僕たち大事にされてますって
いわんばかりでさ、って。
…刺身を
楽しみにしていたのは
どこのどいつだいッ。
「サングラス掛けてると
魚の目も恐くないんだ?」
「恐い?」
フッ、とセイが
私の問いかけを
一笑にふした。
「俺が苦手なのは
こんな生ぬるい生き方をした
養殖魚ではなく
荒海で鍛えられてきた
ホンモノだけが持つ目だッ」
セイがサングラスを
勢いよく取って
魚達にガンを飛ばす。