「何やってるのよッ」

お店の商品を!!!!


「ああッ
こんなにまっ黒にしちゃって
もおおおおッ!」


買い取り決定だよおおおお。

私は財布を取り出した。


「支払いなら終わってるッ。

このトーコのカラダは
俺が金で買ったんだッ」


セイが私から
ぬいぐるみを取り上げる。


「どうでもいいけど
トーコって名前つけて呼ぶの
やめてくれるッ!?」


セイは夢中で
ぬいぐるみに
パンチを入れていて。


「……」

そんなセイの
ジャケットの首根っこを
掴まえて

引きずるようにして
電車に乗った。


車両の一番端っこの席で

カドッコを
背にするようにして

セイはぬいぐるみを
抱き枕のように
両手足で挟み込んでいる。


「トーコのバーカ。
トーコのバーカ」

呪文のように
同じセリフを
ぶつぶつと呟いては

目がちょっと
イッていて

ハッキリ言って

かなり危ないヒトと
化している。



行儀の悪い
座り方をしているセイを

乗客みんなが
遠巻きにしていて。


だけど

絵になっているから
不思議だった。


汚いぬいぐるみを
抱きしめているその姿は

傷だらけの
天使のようで…。


「トーコなんて嫌いだ」

「……」

「トーコなんて嫌いだッ」


私は
セイから目を背ける。



セイの長い足が
私の腰を蹴りつけてきて

目が合うと


うるうると
おおきな目を潤ませて
私を睨みつけてきた。


…情緒不安定な
子どもみたい。


私がぬいぐるみを
取り上げると

カラダを起こして

今度は私の肩に
自分の顔を埋めるようにして
甘えてくる。


「…トーコは俺のコト
好き?」

「…好きだよ」

毎度、毎度
こういうパターンに

身構えてしまう。


「何で
答えに間があるんだよ…!」

「だって!」


セイがフテクサれて
私のヒザに顔を埋めた。


「…セイ、あのね」

私は思わず
ちいさな溜息を
洩らしてしまう。


「……」

セイは私の溜息に
気づかないフリをして

私のヒザ小僧を
撫で回している。


「セイ」

「……」


「ほらッ。

ちゃんと起きあがって
お行儀よくしたら

トーコちゃんが
キスしてくれるって!」


私は

ぬいぐるみの
”トーコちゃん”の顔を
セイの顔に近づけた。

「……」


セイがゆっくりと

私のヒザから
カラダを起こして


私の顔を

切なく見上げてくる。


「……」

「チュッ」


私は気がつくと

無意識に
セイの額にキスをして。


「……」

そんな私の行為が

セイには意外だったのか。


セイの目が
戸惑っている。


「何かキスしてみたく
なっただけだからッ」


私はセイのアタマを
小突いて

セイの視界を遮った。


「…ホントに?」

え?


セイが遠慮がちに
私に問い直す。