セイは
テーブル席から

カウンターの中にいた
ハンサムなヒゲのお兄さんに

音楽を
かき消さんとばかりの
でっかい声で

注文をする。


フィリピンの人は
忍耐強いのか。


こんな日本人の
傍若無人な振る舞いにも

楽しそうに
演奏を続けていて。


ああ。

「…穴があったら
入りたいッ」


「あ〜、また
溜息なんかついて!」


セイが私のアゴを
人差し指で持ち上げた。


「セイちゃん
ひさしぶりじゃない?」


カウンターから出てきた
若いヒゲのマスターが

セイに
親しげに話しかけながら


コーラと

炭酸らしき
透明の液体が入った
ちいさな、おちょこサイズの
細長いグラスを

半月切りのライムと
いっしょに
テーブルに置く。


「最近、何かと忙しくてさ」

セイはライムを
その液体に
軽く絞り入れた。


「…それ、何て飲み物?」

「ショットガン」


セイは面倒臭そうに答えて

私の顔にライムの種を
飛ばしてくる。


「テキーラを炭酸で割った
飲み物ですよ」


マスターが
セイの代わりに
説明をしたくれたのは
いいけれど。