「え。トーコは
知らなかったの?」

「…初耳〜」


いつもいっしょに
遊んでたけど

会社員の子どもだと
思ってた…。


シンスケの一家は
服装も地味だし。

住んでる家だって
格安の古いマンションで…。


「人権派の弁護士でさ。

お金にならない
社会的弱者ばかりを
弁護してるみたい」


ナンノが自慢げに
シンスケの家族を
語り出した。


「…よくご存じで」


恋するオンナの
情報収集力は
たいしたものだッ。


「だってさ。

シンスケくん
私が質問でもしなきゃ

ずっと黙ったままだし」


えッ。


「だから

”うん”とか
”そうだね”とかで
答えられるような話は

フラないようにしてるんだ」


「……」


私は何にも言えなくなって

運ばれてきた
クラブハウスサンドイッチに
かぶりつく。


「勉強が大事なのは
わかるけど

やっぱりデートしたいなあ」


「…そ、だね」


お互いの
口の周りについていた
ソースを

拭き合いっこした。


「何とか
ならないモノかなあ」

家に帰ってからも
私のアタマの中は
ナンノのコトでいっぱいで。


「何とかしてやれば
いいじゃない?」


リビングで
研究室の資料DVDを
見ていたセイが

無責任に答えてる。


「元はと言えば

アンタがシンスケに
無理強いなんか
しちゃったからでしょッ」


「何で、俺?」


セイが空になったグラスを
コッチに向けて

お代わりを要求した。


…何て図々しいヤツッ。