「…信じられないッ」


「トーコってば
何を怒ってるんだよ〜」


セイの狡猾さは
寓話に出てくる
キツネ以上だッ。


「俺、別に

怪我させたとか
Tシャツ欲しいとか
責任取れとか

迫ってないし〜」


「……」


「トーコもいい加減に
してやれよ」

水族館のTシャツに着替えた
シンスケが

セイのコトを庇い立てする。


「そうよ。
鼻血出したのは駅だって
シンスケくんが
正直に言ったのに

水族館さんが
スタッフ用のTシャツ
分けてくれたんだし…」


正直者のシンスケが
偉かったから

セイの言ったコトが
罪深い結果を
招かなかっただけでッ。


「……」

私は不機嫌いっぱいに

水族館の前売り券を
バッグから取り出した。


「俺、トーコにこれ以上
嫌われたくないから

ここで反省して
みんなが出てくるの待ってる」


…セイのヤツ。

ここまで来て

魚の目が恐くって
怖気づいたかッ。


でも、これは

シンスケ達を
ふたりっきりにする
いいチャンスかもッ。


「セイ。
そんなヒネくれたコト
言わずにいっしょに見ようぜ」

シンスケがマジになって
セイを説得しようとしているッ。


「セイは反省した頃に
私が連れに戻るから
先に3人で回ってようよ」

私は
シンスケとナンノの腕を
抱えて

強引に入口を
通り抜けようとした。


セイが嬉しそうに
私達の後姿に
ちいさく手を振っているのが

入口のガラスに映った。


「やっぱり

セイをひとりで
放っておけないよ」


シンスケが
私の手を振り解いて

入口を逆走する。