「はじめまして。
顧問弁護士のカトーです」
細いフレームが
神経質そうな
メガネの都会的な紳士。
いかにも弁護士って
カンジなんだけど。
眼鏡の奥の瞳は
やさしくて
ちょっと安心する。
荷物を
シンドウさんの車の
トランクを詰めて
セイとふたり
後部座席に乗り込んだ。
セイは船酔いから
まだ脱出できないのか
車の中でも
キャップを目深に
被ったまま
黙り込んでいる。
「あ、父と母が
よろしくと申していました。
ふたりとも
いっしょに来たがって
いたんですが…」
私がセイの代わりに
社交性を発揮する。
「師走って
言うくらいですからね。
年末の会社はどこも
大忙しなモンですよ」
弁護士さんも
なかなか
気さくなヒトみたいだ。
「トーコさんのお母さまも
その後の経過は
順調だそうですね」
…「トーコさんの」って
枕詞がちょっと
ひっかかるけど。
「母もまだ外泊できる程
万全なカラダじゃないので」
「長時間の電車に船の移動は
かなりの負担に
なりますからね」
弁護士さんの笑顔が
ミラーに映る。
だけど。
さっきから
セイが黙ったままなのに
弁護士さんが
そんなセイに声も掛けないのは
ちょっと不自然で。
気になっている。
私がオトコのヒトと
盛り上がっていたりしたら
いつもなら
猛烈な嫉妬と憤懣を
ぶつけてくるセイが
おとなしいままで。
何だか
気味が悪い…。
初めて訪れる土地。
初めて会うであろう親戚達。
セイでも
緊張するコトなんて
あるのかな…。
右手には
延々と続く深い緑。
左手には
果てしない青い海。
「……」
セイのパパの
生まれ故郷。
センチメンタルになるのも
当然と言えば
当然で…。
今朝だって
パパ達は
セイを起こす前に
私の部屋にやってきて
「セイの本当の
おばあさまが
亡くなられたらしい」
私に初めて
セイの親戚の話を
切り出してきた。