主のいない葬列編


その土地に
足を踏み入れたら
その土地のルールに従え。

海外旅行のガイドブック
なんかには
必ず書いてある心構え。


それは個人のお宅にも
当てはまるコトで…。


客人のもてなし方にも
いろいろな形があるのは
わかっている。


だけど…。


「…ここはッ」


この家の顧問弁護士の
カトーさんに

「ご自分のお部屋だと思って
気楽にお過ごしください」

って
通されたのは

4畳半の畳の部屋で。


窓には障子。

だけど
北向きの部屋だから
光も入って来ない。


いかにも重そうな布団が
ひと組

置きっ放しで。

どこかカビ臭い。


「自分の部屋だとは
思いたくないんですけど…」


しかも

「暖房器具らしきモノが
見当たらないんですけどッ」


こんな古い木造家屋に
エアコンなんてジャレたモノ

期待はしてなかったけど。


「せめてストーブとか
コタツとか

あってもいいと
思うんだけどッ」


私は悪いと思いつつ
押し入れの中を開けた。


「…何にも入ってない」


この事態を
私はどう解釈すれば
いいのだろうか。


家族として
扱って貰っていると
いい方に考えるか。


それとも

私という娘が
どんな人間なのか
試しているのか…。


「…とにかく
制服に着替えよう」


隙間風に
身を震わせながら
コートを脱いだ。


「こんなトコロで
パジャマなんかでいたら
凍死確実だよおお」


帰りたい。

こんなトコロ

お葬式が終わったら
さっさと帰りたいッ。


「ママの言うコト聞いて
厚手のタイツ
持ってくるんだった…」