渡り廊下を進んでいくと
ガヤガヤガヤと
次第にヒトの声が
おおきくなってくる。
庭には
たくさんの弔問客。
…離れの静かさが
ウソみたいだ。
「カトーさん」
弁護士さんが
弔問客に掴まって
私はひとりで
大広間の中を
そっと覗いてみた。
…旅館の大広間も
ビックリの
広い広間。
延々と続く畳の間の奥に
立派な祭壇が
しつらえてある。
個人宅に
こんなでっかい祭壇が
部屋に入るとは…。
冠婚葬祭は
田舎の方が派手だって
言うけれど。
「…家の中に
水車まで作ってあるぞッ」
白い胡蝶蘭の中に
ちいさな遺影。
「…セイのおばあさまだ」
何か厳しそうな
顔をしていて。
…ふつう、ウソでも
こういう遺影には
笑顔の写真を使わないか?
何だか
違和感を感じる。
カノンくんのお母さまには
ちょっと似てる、かな。
色が白くって
切れ長の目で…。
セイにはちっとも
似ていない、かな。
「あ…」
私は
ひとゴミの向こう
祭壇の右側に
セイとカノンくんの姿を
見つけた。
黒い喪服のセイは
座布団の上
自分の気配を消すようにして
遺影をじっと見つめている。
白い制服のカノンくんと
セイの明るい髪の色は
かなり
目立ちそうなモノなのに。
誰も気にかけないのが
かえって不自然に
思えてくる。
カノンくんと
目が合って。
カノンくんがセイの肩に
軽く触れると
初めてセイは
私の視線に気がついた。