「…和服、どうしたの?」

セイが私の傍に寄ってきて
耳打ちする。


「弁護士さんが
用意してくれたけど」

「…ふ〜ん」


ふ〜ん、って
何なんだッ。

「……」

似合うとか
似合わないとか

何かないのかッ。


「それ、どこの家紋?」

「え?」


セイが
私の着ていた喪服の
マーク見たいな柄を
指さしていた。


「ここん家の紋じゃ
ないみたいだけど」


「私の実家の家紋ですよ」


私の後ろにいつのまにか
弁護士さんが立っていて。


「亡くなった母の
持ってたヤツなんですよ」

昭和の初め生まれの
人間にしては
背が高かったので
ちょうどよかった、って

微笑んでいる。


「…そんな大切なモノ…」

汚い制服の上から
着ちゃったよおおおお。


「…誰に
着付けて貰ったの?」

「えッ?」


セイの顔が曇っててッ。


「あ、私が…」

「わわわわああああああッ」


思わず
おおきな声を出して
悪目立ちしてしまう。


「…カトーさんが?」

「あッ、でもッ。
制服の上から
着せて貰ってるからッ」


「…ちょっと来い」

「あッ」


セイに腕を引っ張られて
部屋を出る。


「もう式が始まりますよ!」


背後から聴こえてくる
弁護士さんの声が

セイの耳には
入っているのか
いないのか。


振り向きもせず

ズンズンと
廊下を歩いていった。


…セイは
この家の間取り
わかってるのかな。


「ねえ、戻ろうよ!」


いろんな意味で
不安でいっぱいになる。


「話なら後で聞くから!」


セイの足が
ピタリと止まった。