ちいさな板の間の向こうに
さらに障子の部屋があって。

障子に人影が動いて見える。


「あの…」

声を掛けようとして

障子の向こうから
漏れ聴こえてくる声に

思わず
自分の声を飲み込んだ。



「あッ、ダメですよ。

そんなトコロまでッ、あッ」


…カノンくんの声?


「興味ありませんか、って

誘って来たのは
そっちだろ」



セイッ!!!!

「アンタ、中学生相手に
何やってるのおおおお!!!」


何やってるの〜。

やってるの〜

てるの〜…。

の〜…。



私の怒声が
静かな山の彼方まで
コダマしていく。


カタッ。カタタッ。

立てつけの悪い
奥の障子が空いて

中からカノンくんが
姿を現した。


「今のトーコさんの声?」

「あ、あ、あのッ」


一糸乱れず
キッチリと制服を着た
カノンくんは

冷静な様子で。


「トーコ。おまえ
そのカッコで寒くないのか?」


同じくカッチリと
黒のスーツを来たセイが

カノンくんの
背中越しに覗き込んでくる。