「この家、おもしろいんだ」

いろんなトコロに
隠し扉があるんだぞ、って

セイが
和ダンスを移動させて

ちいさな通路が姿を現した。


「セイ先輩ってば
もっとあるんだろう、って

もう家捜し
始めちゃって…」


カノンくんが困った顔を
見せている。


「……」


「あッ、ダメですよ。

そんなトコロまでッ、あッ」


「興味ありませんか、って

誘って来たのは
そっちだろ」


…あの会話は
そういう意味だったのかッ。


安堵すると同時に

自分の恥ずかしい想像力に
赤面する。


「江戸時代に
そのときの当主が
命を狙われたのをキッカケに

家中を改造したと
言われてて…」


自分以外の人間を
信じないから

家族と言っても

当主とその妻と
後継ぎだけしか

母屋で
寝泊まりできないような

厳しい慣習が
未だに続いていて。


「未だに僕も母も
母屋の方では
寝泊まりさえしたコトが
ないんですよ」


カノンくんが
苦笑していた。


「トーコ
さっさと中に入って来いよ」


寒いだろ、ってセイが騒ぐ。


「あれ?」

暖かい…。


「この部屋は
暖房器具があるんだ…」


私は室内をキョロキョロと
見回した。


「床暖房が入ってるんですよ」

「……」


もしかして

私の部屋にも
床暖房が入っていて

私がスイッチに
気づかなかっただけ
だったのかな…。


私は
着ていた紺のダッフルを
脱ぐ。