オトコ達の事情編
タバコのニオイが染みついた
その部屋は
8畳程の地味な和室で。
部屋の真ん中には
ちいさめのコタツが
置いてある。
壁が見えないくらいに
ぎっしりと
本が並べられていて
いるのだが
どれもどことなく
煤けた色をしていた。
スーツが2着に
ワイシャツが3着。
カーテンレールに
無造作に引っかけられていて。
ハンガーで破損したのか
窓の障子に
だらしない穴が開いている。
電気ポットに
部屋の隅の段ボール箱には
即席めんがたくさん顔を
覗かせていて。
「…カトーさんって
もしかして
独身なんですか?」
思わず思ったコトを
口に出してしまっていた。
「ああ、まあ。
そうなんだけどね」
カトーさんが
気まずそうに私にお茶を
差し出している。
「…手荒なマネして
本当に申し訳なかったです。
どこも打ったりは
しなかったですか?」
「……」
「あと数時間もすれば
雨雲がこの島を覆うので
船が
物理的に出せなくなるまで
ここにいてくだされば
それで充分ですから」
それまで
ここで
おとなしくしていれば
大事に扱いますから、って
拉致犯のカトーさんが
アタマを下げてくるけれど。
「どうして
こんなコトを…」
「明日、遺言状を
皆の前で開封するまでは
セイさまには
ここに留まって貰わないと
困るんですよ」
「だったら
そう言ってくれれば
いいじゃないですか。
拉致、監禁なんて…!」
まともなオトナの
するコトじゃない。