「広〜〜〜いッ」
土地が余っているにせよ
ちょっとした
旅館の施設みたいで。
湯桶も木製だなんて
一見しゃれてる…けど。
よお〜ッく見てみると
どこか黒く
腐れ掛けているッ。
壁の四隅も
湯気の向こう
黒カビが生えていてッ。
「…う〜ん。
さすが従業員用」
みんなドロドロに疲れて
お風呂に入ってるから
細かいトコロは
気にしてられないのかも
しれないな。
あの気の強そうな
奥さまに
ひとクセありそうな
カノンくん。
…住み込みの
お手伝いさんも大変だ。
「しっかしッ!」
この湯船に
いっぱいになるまで
お湯を張るには
どれくらい時間が
かかるんだろうッ。
私は取りあえず
蛇口をヒネって
お湯を入れ始めた。
「…何か。
待ってる間に
風邪引きそうだよ」
私は脱衣場に戻って
タオルを探す。
「もしかして
タオルとかって
ないのかなッ!?」
…困ったぞ。
何だか
嫁イビリにでも
遭ってる気分に
なってきたッ。
私の荷物が
脱衣場に届くのが
早いのか。
湯船に
お湯が溜まるのが
早いのか。
それとも
私が
風邪を引くのが
早いのか。
…こういうときに
頼るヒトもいないなんて。
私は靴下を脱いで
湯船の中で
足先を温めながら
お湯が溜まるのを
待つコトにした。
「エラいトコに
来ちゃったな」