セイは
いつになく情緒不安定だし。
ケータイは
繋がらないし。
「はあああああああ」
気がつくと
溜息ばかりついて
しまっているよ…。
辛い現実に
すっかり脱力していると
「誰か中にいるの?」
「!!」
この声は確かッ…!
「開けますよ」
私は思わず
湯船の中に起立するッ。
「あら、あら。大変。
ずぶ濡れじゃないの」
カノンくんの
お母さんが
クールに声を掛けてきた。
コトバはやさしいけど
顔が無表情なのが
引っ掛かるッ。
…だけど
こんなトコロに
何しに来たんだッ!?
「お湯を張ってくれて
いたのね。
助かったわ」
「あ、いえッ」
私は笑ゴマしながら
慌てて
湯船から出た。
お客さまを
見送りに出ていた
女中さん達が
濡れて帰ってきたので
急いでお風呂の用意に
来たという。
私の目の前で
カノンくんのお母さんは
テキパキと湯殿の中を
片づけ始める。
「あ、手伝います」
「トーコさんはいいのよ。
中に足をつけてなさいな」
風邪をひかないようにね、と
能面のような顔で
黙々と
お風呂の準備をしていて。
…何か、このヒト
この冷たい無表情な
顔のせいで
凄い損をしてる気がするッ。
何もしゃべらなかったら
不機嫌なのかな、って
誤解されててしまうタイプだ。
…セイの本当のパパの妹。
ダンナさまは
いないのかな。