私がお焼香をしたときには

もう親族席らしきトコロには
誰も残っていなかった。


だけど。


カノンくんの口からは
「母」や「祖母」の単語は
たくさん出てきていたけれど

不自然なくらい
「父」というコトバが
出てこなくて


何だか
触れてはいけないコト
なんだというのは

この私にもわかる。


「ああ、お湯が溢れてるわ!」

「あッ」


カノンくんのお母さんに
指摘されても

もう遅かった。


「スカートがあああああ」

パンツも少し
濡れ気味で。


…最悪だ。



「全部脱いじゃいなさい」

「えッ」

「今、洗濯しておけば
明日の朝には乾くから」


私のブラウスのボタンに
カノンくんのお母さんの
手がかかって

拒絶する間もなく
脱がされるッ。


「ほら、下着も」

「下着は
自分で脱ぎますからッ」


…ずいぶん見た目と
キャラに差があるヒトだ。


お母さんに背中を向けながら
下着を脱いでいると


「キレイな肌ね」


なんて

背中に触れてきてッ

!!!!!!!


私は下着を投げ出して
思わず湯船にカラダを
沈めてしまった。


「じゃ、洗濯しておくから」


声だけ聴いてたら
なつっこいヒトなんだけど。


鏡に映っていた顔は
やっぱり無表情で


ちょっとコワイ。


お母さんが脱衣場から
気配を消したのを確認して


「はあああああああ」


私はおおきく息を吐き出した。