「だけど

ばあさんが献体の登録を
若い頃にしていたと
仮定しても

やっぱり納得はいかない」


昨今では
献体希望者がおおくて

どこの医大も歯科大も
抽選で登録者を決める程の
順番待ちで


「肉親がひとりでも反対すれば
無効になるのが一般的だし」


「……」


確かにセイは
戸籍上は他人だけど

血の繋がった孫でもある。


その理屈から言うと

セイが献体を拒絶すれば
実行されなかったのかも
しれなかった。


「葬式だって

ちゃんとあげてから
献体に送り出すコトも

できたハズなのに…」


「……」

セイの
押さえた声のトーンから

その悔しさが
伝わってくる。


…だけど

私は
セイの方を振り返るのが

何だか恐かった。


「…おばあさまのコト
大好きだったんだね」


こんなコトバしか
出てこない。


「夫が勘当した
息子夫婦と孫、逢いたさに」


リスクを押して

島から
出たコトもないような人間が

近くにマンション借りて

ひとり暮らしを始めたりして。


そんなヒトを

「嫌いになれるワケ
ないだろ」


私のアタマから
持っていた湯桶で
乱暴にお湯を掛けた。