「いでッ、痛、痛たたッ」
思わずセイの髪を
掴んでやったッ。
「ご満足戴けない
淋しい胸で
それは
悪うございましたねッ」
マジ、ムカつくううううう。
「わかった!
わかった!
俺が悪かったッ!」
洗面器で殴られて
セイが嬉しそうに
白旗を上げてくる。
「何笑ってるのよッ」
「だってさ。
思い出さない?」
初めてセイが
我が家に連れてこられた日。
ふたり
お風呂場で
取っ組み合いのケンカをして。
「あのときは
ウソつき呼ばわりして
…ごめんなさい」
「別に。
俺がウソつきだってのは
当たってるし」
セイが
自分のアタマの泡を
すくい取った。
「こら!
泡のついた手を
湯船の中に戻さないッ」
もおおおッ。
公衆マナーなんぞを
セイに説こうとするのが
間違っているのか。
「だったら
さっさと髪、洗ってよ」
オコチャマめッ。
パパやママ。
他のヒトの前では
オトナびた顔を
しているのに。
私とふたりっきりになると
どうしてこうも
遠慮がなくなるのか。
「……」
私はセイの髪を
再び洗い始める。
首筋に触れると
私の手の動きに
セイが甘えるように
首を傾けてきた。
気持ちよさそうに
私に身を委ねてくる
その姿。
「……」
それはまるで
ちいさな動物が
甘えてくるような
仕草に見える。
…ヤバいッ。
ヤバすぎる程
自分の心臓が
高鳴っているのがわかった。
「あッ、あのさ。セイッ」