父親の秘密編
目の前には
湯船から顔を出す私達を
珍しそうに覗き込む
お年寄りがひとり。
取れかかったパンチパーマ
みたいな髪は
ゴマ塩みたいに
白髪と黒髪が
入り混じっていて。
肌は浅黒く
眉毛は真っ黒、極太で。
白のシャツに
黒のタックパンツ。
…見れば見る程
おじいさんなのか
おばあさんなのか
判断に迷ってしまう。
「あの…ッ?」
思い切って
声を掛けてみた。
自分でも
作り笑顔が
引きつっているのがわかる。
「ねえちゃん達
お風呂の中でふざけ合うのは
危ないだよ」
声を聞いても
オトコかオンナか
わからないッ。
でも。
ここは女湯だし。
カノンくんは
女中さんに
荷物を運ばせるとか
言ってたから
おそらく
おじいさん、ではなく
おばあさん、なんだろうッ。
「これくんらいの湯量で
オトナは溺れたりせんと
思うてたら
大間違いだからの」
オジばあさんが
真面目に説教を始め出した。
「よっく、聞きなされよ」
私は湯船の中
正座しているというのに
セイってば
オジおばあさんに
背中を向けたままで。
…態度悪いぞッ。