「前にもな。

ここの坊ちゃんが
ええ年して

危うう
溺死されそうになってな。

それはもう
大変だったんだワ」


え。

「あのカノンくんが
ですか!?」


思わず大声を出してしまう。


…イメージじゃないッ。


カノンくんってば
あんなクールな顔してて

案外、おマヌケなんじゃ
なくって〜?


何かイッキに
親近感が湧いてしまった。


「カノン坊ちゃまじゃ
ありませんワ。

先代の長男坊」


もう20年も昔の話だと
オジばあさんは
物知り顔で語ってる。


…先代の長男。

20年前って


もしかして

セイのパパのコト
なんだろうか。


私は
さっきから黙っているセイを
横目でチラリと見た。


「……」


…セイのこの黙殺ぶりは

恐らく

私の推測が当たっていると
いうコトなんだろう。


いつものセイなら

こんな美味しそうな話


自分から
食いついていって

相手から情報を
引き出させるだけ
引き出させてるハズだよね。


「おっと、イケない。

勘当された身の
坊ちゃまの話なんて

してたの知れたら
大変だワ」


失言を誤魔化すように
そそくさと
オジばあさんが
浴室を出て行こうとした。


「誰に知られたら
マズいワケ?」