呼び止められた廊下編


「うおッ。きったね〜ッ」

お風呂場の排水溝を
覗き込んだセイの顔が
おおきく歪んだ。


「アンタみたいな
お風呂の使い方をする
人間ばかりだと

そんなコトになるの!」


初めて訪れる家の
お風呂場を

勝手に掃除するなんて

嫌味に取られても
仕方ないとは思ったけれど。


セイのシャボンに
カステイラの欠片が
浮かんだ湯船を
そのまま置いて

お風呂場を後にするのは
あまりにも
申し訳なさ過ぎで。


「汚れだけ
すくい取っておいたら

いいんじゃね〜の」


そうはいかんだろ〜ッ。


次に入ったヒトは
知らずに入るんだから

不快には思わないって

セイは言うけれど。


「自分がやられて嫌なコトは

やっぱ
他人にもしちゃダメだよ」


「トーコって
みょ〜なトコ優等生なんだよな」


ってッ。


アンタがちゃんと
公衆マナーを順守していれば

掃除なんてしなくて
済むんだろうがあああッッッ。


ゴシゴシゴシシッツ。

私は
タイル張りのお風呂の中を

セイのつもりで
タワシで力いっぱい
擦ってやった。


「足、冷て〜。
髪、凍る〜ッッ」


「文句ばっか言わずに
手を動かしなさいッ!」


私は
ジーンズを捲くり上げていた
セイの足元に
シャワーを掛ける。