カノンくんも
何もあんなお年寄りに
荷物を運ばせなくても
よさそうなモノなのに。
…だけど。
やっぱりカノンくんは
あのオジばあさんに
セイが中で
お風呂に入ってたコトを
聞いたから
女湯の前にずっと立って
私とセイを待ち構えて
いたんだよね。
中にいる私達に
声を掛けるワケでもなく。
あの寒い廊下で
セイが出てくるのを
じっと
待っていたのかと思うと
ちょっとコワイ。
しかも
私がセイといっしょに
お風呂に入っているって
事実を
仲のいい姉弟と
受け止めてくれていたのか。
セイのパパのコトを
知ってしまっただけに
確かめる勇気が
どうしても出なかった。
ひとクセも
ふたクセもある
ここの住人達。
「これ以上
何も起こりませんように!」
ココロの中で思わず
祈る。
廊下の奥から
穏やかな
セイの声がする。
覗き込むと
セイが私より先に
電話に出ていて。
「あ、今
ウワサのトーコがきたから
代わる」
セイが受話器を
私の胸元に
押しつけてきた。
…ウワサの、って
何のウワサを
していたんだかッ。
『トーコ?』
電話の向こう
懐かしいパパの声。
「パパぁッ」
『何だトーコ。
その情けない声は』
もうホームシックか、って
パパが笑ってる。