お箸の国のヒト編
「あれッ?」
セイを追い払って
電話を済ませたのは
いいけれど。
「食事って
どの部屋に行けばいいんだッ」
広い屋敷の中
私は
いきなり迷子になる。
「あの〜…
誰かいませんか!」
しーん。
私のおおきめの声が
廊下に響いただけで
何の反応もなかった。
「セイは
どこに
いっちゃったんだろう」
ひとり取り残され
イッキに
不安がピークになる。
昼間は
あんなにたくさんの
弔問客がいたというのに
夜になってからの
この静けさは
何なんだろう。
「他の親戚とかは
帰っちゃったんだろうか」
もっとも
お葬式といっても
遺体もなく
遺骨もなく
形だけのお別れで。
そもそも
親戚が
こんな離れ小島に
わざわざそんな弔問に
集まってきていたのかさえ
疑わしかったけど。
…もしかして
この島には
旅館とかあるのかな。
だとしたら
正直言って
そっちに泊まりたかった。
パパもママも
カトーさんを信用して
私達を預けたのかとは
思うけど
知らない家。
外は雨。
暗い廊下。
重苦しい古い家の空気が
落ち着かない。