「恐がる必要は
ありませんから」
この屋敷にお勤めに上がって
もう何十年と経ちますけれど
幽霊には遭ったコトは
一度もありませんから、って。
カトーさんは
笑ってるんだけどッ。
「ただ
怪我人が出るって言うのは
本当だけどね」
えッ。
「以前、線香を
うっかり
絶やしたコトがあって」
って
その事実の方が
幽霊を見るより
よっぽど恐いじゃ
ありませんかああッッッ!
「ここの奥さまが
線香を立てに
慌てて階段を下りて…」
足を滑らせて
骨盤を複雑骨折。
「結局、そのまま
寝たきり老人になって
しまわれたから」
…亡くなられた
セイのおばあさま。
寝たきりになった後
認知症になったって
聞いていたけど。
まさか
そんなオカルトな背景が
あったなんてッ。
「元々、薄暗いし
階段の幅も
極端に狭いから」
危ないから
「好奇心で中に入ったり
しないようにね」
カトーさんが
始めて真面目な顔で
私に念を押した。