「トーコの好きな
ほうれん草のおひたしッ」


セイがにっこりと
私の顔を覗き込みながら

手で
自分の小鉢から
私のお茶碗に

ほうれん草を移動させた。


…オノレッ。

私のお尻の下に
いったい何を置いたッ。


「……」

私はそっと
お尻の下の異物に
触れてみた。


じんわりと冷たさが
伝わってくる

その正体は…ッ!


コンニャクかッ!!


…セイにとって

食べ物のカテゴリーには
もはや所属しないと思われる

可哀想なその物体。


私はそっと
お膳の端っこに
隠したつもりだったのに。


「まあ、食べ物を
手で掴むなんて…!!」


目ざといカノンママが

わざとらしいくらいの
驚嘆の声をあげる。


「あ、すみませんッ」

てっきり私のコトだと
思ったらッ


「先輩
ナイフとフォークを
使いますか?」

って。


セイのコトかいッ。


「お箸も
ろくに使えないなんて

どういう教育を
してきたんだかッ」


能面顔のカノンママの
口の端が

嬉しそうに上がってるッ。